奈良・大和文華館で特別展「聖域の美」が行
われています。
寺社の境内図という
あまり聞きなれないモチーフを主題とした展覧会ですが、展示の質の高さは大和文華
館ならではです。

目次
- 中世の寺社は、大学
であり企業でもあった - 宗
教施設の境内図は西洋絵画では見かけない - Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳
- Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内
- Ⅲ章 境内の記憶と再興
- Ⅳ章 にぎわう境内
境内図や登場人
物から、大河ドラマの時代考証のような生き生きとした空間の描写を楽しむことがで
きます。
寺社境内図はいわば、いに
しえの空間の記録写真のようなものです。
中世の寺社は、大学であり企業でもあった
現代の感覚で寺社と言え
ば、荘厳な空間、積み重ねた歴史、自然との調和といった、祈りと観光の場です。
現代のようになったのは江戸
時代になってからで、それまでの中世ははるかに大きい存在感を示していました。
中世以前の日本は、最先
端の知識は寺社に属するほんの一握りの人しか持っていませんでした。
平安時代半ばに遣唐使を廃止
して以降、中国から最先端の知識を持ち帰ったのはほとんどが留学僧だったからです。
科学や産業から芸術に至るま
であらゆる”知”を有し、現在の大学と企業を併せたような存在でした。
大河ドラマで尊敬される「和
尚さん」が描かれるのも、町一番の物知りだからです。
宗教施設の境内図は西洋絵画では見かけない
この展覧会を見て「西洋
絵画で境内図を見たことがない」と、ふと感じました。
聖堂を描いた絵画はたくさんありますが、組織と
しての教会の存在感をアピールすると言うよりも、町の名所を描いた風景画のように
感じられます。
聖堂の中に描
かれた絵画でも、神話や聖書のシーンをモチーフにしたもの以外、見た記憶がありま
せん。
日本の寺社の境内
図は、正倉院に東大寺の境内図が収められており、奈良時代にまでさかのぼることが
できます。
中世から膨大な数
の作品が現在に伝わっており、「寺社の境内図」というテーマで展覧会を構成できる
ほどです。
この違いはな
ぜなのか、歴史や文化の違いから考察してみました。
- キリスト教の聖堂は町の中心の広場に面してあり、
特別なエリアという概念はない。日本の寺社は郊外にあって壁で囲まれており、境内
が特別なエリアと感じさせる。 - 中世のキリスト教会は、領主をもひれ伏せさせる権力を持っており、
ブランドをアピールする必要がなかった。日本では政治権力を握る寺社はほとんどな
く、貴族や武家など有力な支援者の獲得を競った。 - キリスト教は宗祖・キリストと聖書という絶対的
な信奉対象がある。仏教は宗祖・釈迦がのこした聖典がなく、釈迦よりも各寺院の開
祖を重んじることが多い。
日本では寺社の境内の壮麗さや賑わいを絵画で伝えることによって、
自らのブランドをアピールしてかったと感じています。
信者や経済的利益の獲得競争という、リアルな歴
史が生み出した産物の一つが「境内図」でしょう。
Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳
展覧会は4つの章で構成されています。
日本の寺社境内図の変遷を、時代背景を追いなが
ら理解できるようになっています。
Ⅰ章「聖域の静謐と荘厳」では、鎌倉時代までの作品で構成されてい
ます。
神聖な場所として境内
の様子が荘厳に描かれた作品が多く、高貴な趣が感じられます。
仏教はまだ庶民からは距離があったことをうかが
わせます。
大和文華館が、
原三渓から受け継いだトップクラスの名品が展覧会の幕を開けます。
いちじれんだいほけきょう、
平安時代末期に制作された経典です。国宝です。
絵巻物語のように貴族と僧侶が祈りをささげる姿が描かれており、仏
教に深く帰依していた当時の貴族階級の空気を見事に表しています。
色彩がよくのこり、大切に守
られてきた作品だと感じさせます。
ひえまんだらず、
比叡山の守護神である日吉大社の境内図で、それぞれの社殿に鎮座する本地仏(ほん
じぶつ)が描かれています。
平安時代は、仏が人々を救うために神の姿で現れると信じられおり、本地仏とは神の
本来の姿を指します。
如来や
菩薩として描かれた神の姿は緻密で、金泥で装飾されていることからとても荘厳です。
高貴な人の祈りの対象として
制作されたと考えられています。重要文化財です。
【文
化庁・文化遺産オンラインの画像】 「高野山水屏風」京都国立博物館
こうやせんずいびょ
うぶ、金剛三昧院に伝わった屏風で、大門から奥の院に至る高野山上の全景を描いた
珍しい屏風です。
僧侶や人々
に加え動物の様子までもがリアルに描かれており、さながら洛中洛外図の高野山版と
いった趣の名品です。
重要文
化財です。

大和文華館の玄関
Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内
Ⅱ章「物語をはぐくむ場
所 縁起と境内」では、鎌倉時代後半から制作されるようになった大型の掛幅(かけ
ふく)に描かれた縁起物語や境内図が登場します。
掛幅とは天井からつるす巨大な掛軸のような絵画
で、一度に大勢に布教するために製作されたと考えられています。
庶民にも仏教が拡がっていく時代だったことがう
かがえます。
かるかやとは説教の
物語の一つで、遍歴僧らが中世に各地で布教するために用いた、現代で言う紙芝居の
ような趣の作品です。
マンガ
のように親しみやすく人物や風景が描かれており、とてもほのぼのとしています。
Ⅲ章 境内の記憶
と再興
Ⅲ章「境内の記憶
と再興」は、室町時代に製作された境内図で構成されます。
寺社は戦乱・火災・天災で伽藍を失うことが幾度
もあり、再建時に往時の姿をイメージするために造られた境内図も少なくないようで
す。
「慧日寺絵図」恵日寺蔵
は、会津で中世に繁栄した、今はなき巨大伽藍の姿を目にすることができます。とて
も重厚感のある作品で、発掘調査の際にも参考にされました。
Ⅳ章 にぎわう境
内
Ⅳ章「にぎわう境内」
は、戦国の世が終わり平和な生活を謳歌する人々の様子が生き生きと描かれた作品が
登場します。
【文
化庁・文化遺産オンラインの画像】 狩野松栄「釈迦堂春景図屏風」京都国立博物館
しゃかどうしゅんけ
いずびょうぶ、春の嵯峨釈迦堂に参拝する人々がとても明るい表情で描かれています。
桜の下では酒宴が開かれてお
り、商店で品定めをしている人もいます。
今まで見た境内図に比べ、描かれた人の多さとにぎやかな雰囲気は一
目瞭然です。

寺社の境内図と言う一見不思議なテーマ設定に惹
かれて鑑賞しましたが、寺社の姿から日本の歴史を学べたように感じられ、大いに満
足できました。
展示作品は全
国の美術館や寺社から集まっており、名品がきちんと選りすぐられていることもわか
ります。
是非お勧めです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があ
ります。
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Portal
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利用に
ついて、基本情報
<奈良
県奈良市>
大和文華館
特別展
聖域の美 ―中世寺社境内の風景
―
【美術館による展覧会公式サイト】
会期:2019年10月5日(土)~11月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00
~16:00
※10/27までの前
期展示、10/29以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会
場への巡回はありません。
※
この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館し
ています。
◆おすすめ交通機関◆
近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分
JR大阪駅から一般的なル
ートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
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前駅
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※駐車場不足により、健常者
のクルマによる訪問は非現実的です。
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