
大正モダンの「鶴」の紋様が実に綺麗
白鶴美術館は、日本有数の酒どころである灘の地で江戸時代から続く酒造メーカー「白鶴酒造」の七代目当主が1934(昭和9)年に開設した美術館だ。同じ灘の地の「菊正宗酒造」は本家筋で、共に嘉納財閥として古くから知られており、講道館柔道の創始者・嘉納治五郎も一族の一人だ。
美術館は住吉山手にあり、神戸や大阪の街並みを見下ろす絶景が広がる。阪神間は主に大正時代に高級住宅地として開発が進み、関東大震災後に谷崎潤一郎が東京から移住してきたように、名だたる文化人や財界人がこぞって邸宅を持った。そのため阪神間は現在でも、朝日新聞・村山一族による香雪美術館ほか、日本有数の実業家系美術館の集積地であり、白鶴美術館はその代表格である。

七代目は中国美術を愛した、中国風の意匠がとても美しい
美術館の本館は築100年近い大正~昭和の阪神間モダニズムの生き証人だ。展示室へ続く渡り廊下からは、積み重ねてきた時間の長さと上質な静けさを同時に感じながら展示室へ向かう。天井と鴨居の間の欄間(らんま)や廊下に置かれた長椅子の意匠がとても気品のある中国テイストで今見てもとても美しい。
高い天井と開放感のある窓に囲まれた展示室の雰囲気は戦前とほとんど変わっていないだろう、そう思わせる重厚感がある。格子天井の洗練された天井画も部屋の空気を凛と引き締めている。阪神大震災で趣のあるシャンデアリアは落下倒壊したと聞くが、建物は健在だったようだ。まさに邸宅の気品を今に伝えている。維持管理の努力の賜物だ。
開催中の秋季展では、重文・金襴手獅子牡丹唐草文八角大壺(きんらんでししぼたんからくさもんはっかくだいこ)に不思議なオーラを感じる。八角形の面それぞれに赤い大きなベタ色が置かれており、壺の裾には獅子が描かれている。赤ベタだけを見るとさほど気品を感じないのだが、裾の繊細な獅子の絵から見て全体を見渡すとなぜか引き締まって見える。
期間限定展示(9/20~10/21)の伝周文「四季山水図屏風」も見応えがある。室町時代の水墨画の大家だが、真筆が一点も確認されていないミステリアスな画僧だ。
この美術館の目玉作品でもある狩野元信筆「四季花鳥図屏風」は、展覧会期中は常に複製で見ることができる。この複製画もさながらリアルに作られており、充分に見応えがある。
七代目当主嘉納治兵衛は奈良で育ち、若い頃から古美術に親しんでいたようだ。当時の実業家コレクターには蒐集品の公開を嫌う人が多かったが、七代目治兵衛は財団に所有を移して末永く公開保存されることを望んだ先進的な考えの持ち主だった。財団に移したことでコレクター没後に蒐集品が散逸することを回避し、終戦直後の財産税対策で売りに出されることも免れた。
実業家系の美術館で、戦前の建物が今も現役で使われていることは珍しい。建物と作品の双方から創始者の美術品への愛情を感じる素晴らしい空間を体験できる。
今では建物からは直接見えないが、入口手前の住吉川沿いに流れる道路からは阪神間の海と街と山を見渡す絶景が広がる。帰り道に堪能されることをお忘れなく。

黄色矢印が高さ日本一のビル「あべのハルカス」、借景は生駒山
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
全国の名門一族を紹介、多くの実業家系美術館のルーツを知ることができる
白鶴美術館 「2017年秋季展 ―寿福の造形・明時代作品を中心に―」(本館)
会期:2017年9月20日(水)~12月10日(日)
原則休館日:月曜日
※日本画を中心に展示期間が限られている作品があります。
※毎年3-6月の春季展・9-12月の秋季展中のみ開館
※「新館」は、日本では珍しい絨毯のミュージアム。
