前回の続き、六本木・サントリー美術館「遊びの流儀」展のレポートの後半戦、第4章以降をお伝えします。今回の展覧会の目玉作品が続々登場します。
- 屋外から室内への遊楽図のモチーフの変化から、”遊び”に対するあくなき欲望が感じられる
- 双六やかるたの図柄からは、人を楽しませようとする作者の情熱がひしひしと伝わってくる
江戸時代は文化や科学技術が大きく飛躍した時代でした。天下泰平が生活に余裕を持たせたのです。遊楽図は天下泰平が始まった時代の空気を見事に私たちに伝えてくれます。そんな空気を引き続きじっくりと味わってみてください。

青空に突き抜けるミッドタウン、爽快。
第4章は「邸内」、第5章は「野外」と分かれますが、この展覧会のメインテーマである「遊楽図」が続けて濃厚に登場します。”遊び”の絵に対する嗜好の変化もたっぷりと味わうことができます。
町の人々の生活や遊びの様子を描いた風俗画は、安土桃山時代に京都を描いた洛中洛外図で流行に火が付きます。長い戦乱の時代から解放され、ようやく暮らしを楽しめるようになった京都の人々の喚起が、寺社など数々の名所とともに町全体として描かれます。
時代が下ると風俗画も、町全体ではなく特定の野外スポットや邸宅内だけを描いたもの、さらには室内だけを描いたものと、徐々に描く範囲が狭くなっていきます。その分”遊び”の様子をクローズアップして描いた作品が多くなり「遊楽図」という呼び名の方がしっくりくるようになります。描かれる人物の数を少なくする一方で、背景を省略して人物を大きく描き、人物の動きや表情にスポットをあてるようになっていきます。
1630年代前後の寛永(かんえい)期には、屏風のような大画面がまだまだ中心でしたが、屏風の中に描いた複数の扇に異なる人物を描く構図も現れ始めます。画面の小型化も始まり、1660年代前後の寛文(かんぶん)期には、掛軸に一人の人物だけが描かれた風俗画が登場します。「寛文美人図」と呼ばれ、無名の絵師たちが安価に大量に制作していました。
やがて菱川師宣(ひしかわもろのぶ)が江戸で「美人画」としてのジャンルを確立し、風俗画・遊楽図は浮世絵の時代へと突き進むことになります。
この展覧会では、おおむね「寛文美人図」までの時代の風俗画・遊楽図をカバーしています。

ミッドタウンの内装にも木の香り、隈研吾の影響?
第4章は「邸内遊楽」では、7/15までの展示で私は見られませんでしたが、徳川美術館蔵「遊楽図屛風(相応寺屛風)」が、展覧会全体の目玉作品としてふさわしい存在と感じました。図録での確認だけでもオーラが伝わってきます。
八曲一双の巨大画面の中で、巨大な邸宅内とその周辺でものすごい人数がどんちゃん騒ぎしています。尾張徳川家の伝来品で、太平の世を謳歌する何らかの宴の様子であると考えられています。何と言ってもありとあらゆる娯楽とレジャーが描かれていることが圧巻です。”遊び”のデパートのような作品で、時代考証の面でも飛び切り貴重な描写がのこされていると感じられます。重要文化財にふさわしい名品です。
【サントリー美術館 コレクションデータベースの画像】 邸内遊楽図屛風
サントリー美術館蔵「邸内遊楽図屛風」は、妓楼でかるたや三味線による踊りなどで遊興にふける男性客と遊女を明るい画面に生き生きと描いています。妓楼でこの屏風を目にしたとしたら、ほとんどの男性客は、思わず店に入ってしまうと思えるほどの”誘惑の香り”を発しています。全期間展示です。
静嘉堂文庫美術館蔵「四条河原遊楽図屛風」は、京都随一のイベント会場だった鴨川の四条河原がモチーフです。現代では夏だけ河原に立ち並ぶ川床で遊ぶ人たちの様子を彷彿とさせます。遊女歌舞伎や人形浄瑠璃の芝居小屋の見物客や水遊びを楽しむ人々がよりリアルに描かれており、気品も兼ね備えた名品です。重要文化財、7/24以降の展示です。
【サントリー美術館 コレクションデータベースの画像】 祇園祭礼図屛風
現代も京都で続けられている著名な祭りの絵にも注目されます。7/22までの展示でしたが、サントリー美術館蔵「祇園祭礼図屛風」は、元は連続する巨大な襖絵の一部で、残りはドイツやアメリカの複数の美術館に分蔵されていると推定されています。昨年に続き今年2019年にも話題になった「横山華山」展での祇園祭礼図の”大先輩”にあたるような名品で、山鉾の装飾や人々の衣装がとても丁寧に描かれています。

奈良・大和文華館、展覧会に多数貸出
3Fに下りる吹き抜けの大きな空間では、第6章の「双六」、第7章の「かるた」を楽しむことができます。ポルトガルから伝わったかるたの図柄の変遷を見ていると、多種多様で本当に飽きません。「よくもまあ次から次へとデザインを考えたもんだ」という具合です。
「遊楽図」の進化の一つの到達点ともいえる、小人数がクローズアップされたり、大胆な構図で描かれた作品が第8章を構成し、展覧会のフィナーレを飾ります。
【大和文華館 公式サイトの画像】 婦女遊楽図屏風(松浦屏風)
この展覧会出品作で唯一の国宝は、ホームグラウンドから展示会場を変えても圧倒的な輝きを放っています。大和文華館蔵「松浦屏風」です。遊里の室内で時間を過ごす遊女と禿を描いた作品で、衣装の描写の緻密さやキセルの一服や手紙を読んでいる際に見せる一瞬の表情のキャッチが秀逸です。保存状態がきわめて良く、彩色は輝いています。
彦根屏風と並んで江戸時代初めの風俗画の最高傑作の名をほしいままにしています。7/24以降の展示です。
7/22までの展示で国立歴史民俗博物館蔵「輪舞遊楽図屛風」、7/24以降の展示で大和文華館蔵
「輪舞図屛風」は、いずれも大きな広場で円形になって踊っている人々を描いています。幾何学模様のような構図が目を引き、遊楽図の新しい展開を感じさせます。
根津美術館蔵「誰が袖図屛風」は、六曲一双の大きな画面に、室内に掛けられた着物だけを描いています。宴の後に人気がなくなったような空気感をきわめて斬新な構図で表現しており、「遊楽図」が一皮むけて新たな時代に入ったことをうかがわせます。絵の構成はさらに自由になり、一人だけを描く「寛文美人」から「浮世絵」へと発展していくのです。

©Pixabay
今年2019年は秋の展覧会シーズンがこれからやってきますが、「遊びの流儀」展は間違いなく2019年を代表する展覧会の一つだと感じました。とにかく濃厚です。
この展覧会は4期に分けて展示替えがあり、ご紹介した以外にも、逸翁美術館蔵「三十三間堂通矢図屛風」、サントリー美術館蔵「南蛮屏風」伝狩野山楽筆、徳川美術館「本多平八郎姿絵屛風」などの名品は、私は見ることができませんでした。もしこれらの数多の名品が一堂に見られたとしても、2回に分けて訪問しないと疲れてしまうと感じるほどです。
期待を裏切りない見事な展覧会です。気合を入れてお出かけください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
「奇想の系譜」の著者・辻惟雄が感じた江戸時代の風俗画の多様性とは?
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<東京都港区>
サントリー美術館
サントリー芸術財団50周年
遊びの流儀 遊楽図の系譜
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:サントリー美術館、朝日新聞社
会期:2019年6月26日(水)~8月18日(日)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)
※会期中4回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
都営地下鉄大江戸線「六本木」駅下車、8番出口から東京ミッドタウンB1Fに入り徒歩5分
東京メトロ日比谷線「六本木」駅下車、地下通路を通って8番出口から東京ミッドタウンB1Fに入り徒歩10分
東京メトロ千代田線「乃木坂」駅下車、3番出口から東京ミッドタウン1Fに入り徒歩10分
サントリー美術館は、東京ミッドタウン・ガレリア3Fにあります。
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→メトロ丸の内線→霞ヶ関駅→メトロ日比谷線→六本木駅
【公式サイト】 アクセス案内
(注)10:00~11:00は1Fからしか東京ミッドタウンに入れません。
【美術館公式サイト】 11:00までの入館方法
※この施設(東京ミッドタウン)は有料の駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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