さすがは根津美術館、花鳥画の進化を「美しきいのち」展で満喫 11/4まで

根津美術館で、中国と日本の花鳥画の変遷をたどることができる展覧会「美しきいのち」が行われています。新館開館10周年の企画展でもあり、根津コレクションのとっておきの名品が出揃っていることが注目されます。

  • 花鳥画の歴史、唐時代の中国がルーツ
  • 気品ある院体花鳥画が中世の日本人を魅了した
  • 花鳥画は日本でも中国でもたゆまず進化していった


東洋絵画では、花や鳥をはじめとする動植物は、山水画や人物画と並んでとてもポピュラーなモチーフです。生きもののナチュラルな「美しきいのち」、数々の花鳥画の名品からその素晴らしさがひしひしと伝わってきます。


いつ見ても美しい天井

花鳥画の歴史、唐時代の中国がルーツ

植物/動物/昆虫といった生きものを主役のモチーフとした絵画作品で現存しているものは、おおむね中国では11c頃の北宋時代、日本では15cの室町時代以降です。中国では、唐時代の宮廷画家の組織だった翰林図画院(かんりんとがいん)で、花鳥画が制作されていたことが伝承により知られていますが、作品は現存しません。

宋代に院体画(いんたいが)と呼ばれる宮廷趣味の画風が栄え、花鳥画も数多く描かれます。中国で制作された絵画を意味する唐絵(からえ)の一つとして、花鳥画は山水画や人物画とともに留学僧や交易を通じて日本にもたらされます。戦国時代には中国風を脱却してやまと絵風の花鳥画も制作されるようになります。

日本では、奈良時代の正倉院宝物に見られるような工芸の意匠や、絵巻物の背景の一部として花鳥が描かれることは古くからありました。花鳥画という絵のジャンルとして認識されるようになったのは、中国からの輸入がきっかけです。桃山時代以降は武家や商人など様々な階層で人気を博すようになります。襖絵や屏風・掛軸・浮世絵から磁器まで、花鳥画は日本で独自の進化を遂げていきます。

根津美術館の古美術コレクションは日本トップクラスであり、こうした花鳥画の歴史を俯瞰できる作品が揃っています。根津美術館でないとできない展覧会と言っても過言ではありません。

気品ある院体花鳥画が中世の日本人を魅了した

展覧会は花鳥画の歴史を中国と日本に分けてたどれるよう構成されています。第1章は古代中国の青銅鏡の文様にほどこされた花鳥です。正倉院宝物のようなエキゾチックな趣があり、吉祥や異国情緒など、後世と同じ思いが花鳥文様に込められていたことが伝わってきます。第1章はすべて通期展示されます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第2章は宋代の院体花鳥画です。緻密な描写、気品のある彩色といった宮廷趣味の表現が究極にまで高まった名品が並んでいます。中国と日本の後世の多くの絵師たちの美意識の規範となりました。

【根津美術館 公式サイトの画像】 伝李安忠筆「鶉図」根津美術館蔵

「鶉(うずら)図」は根津美術館が誇る中国絵画の至宝の一つで、東山御物(ひがしやまごもつ)として伝来した国宝です。鶉の温もりが伝わってくるよう柔らかい筆致に目を見張るとともに、楕円形の構図の中に絶妙の存在感をもって表現されています。前期のみの展示です。

江戸時代の土佐光成筆「粟鶉図」根津美術館蔵は、院体花鳥画表現を学んだことを感じさせる作品です。土佐派が得意としたやまと絵表現を上手に融合させているようです。前期のみの展示です。

【根津美術館 公式サイトの画像】 呂敬甫筆「瓜虫図」根津美術館蔵

第2章は、後期展示で14-15c明代の呂敬甫筆「瓜虫図」が登場します。花鳥が描かれていないため草虫図(そうちゅうず)と呼ばれますが、写実表現の質の高さは秀逸です。この作品も多くの日本の絵師たちが規範としたのではと感じさせます。重要文化財です。

第3章は水墨画で描かれた花鳥です。日本の水墨画の興隆に大きな影響を与えた南宋の画僧・牧谿(もっけい)筆と伝わる作品が前後期共に展示されますが、注目は後期展示の「竹雀図」です。

【根津美術館 公式サイトの画像】 伝牧谿筆「竹雀図」根津美術館蔵

水墨画特有の大気の湿潤感が醸し出されており、牧谿らしい柔らかな情緒を感じさせます。古来「濡れ雀」評されてきた東山御物です。

牧谿の画風を学んだ室町時代の日本の絵師の作品も見応えがあります。啓孫筆「芦雁図(ろがんず)」根津美術館蔵は、はばたく雁と風になびく芦の様子を生き生きと描いています。筆致は柔らかく、水墨画ながらも温かみのある作品です。前期のみの展示です。

花鳥画は日本でも中国でもたゆまず進化していった

第4章は中国・朝鮮半島・日本の陶磁器に表現された花鳥画です。時代に応じて発展を続けた花鳥画の一つの進化系が陶磁器です。陶磁器は展示品の入れ替えはなく、すべて通期展示されます。

【根津美術館 公式サイトの画像】 景徳鎮窯「青花花卉文盤」根津美術館蔵

明代の景徳鎮で焼かれた「青花花卉文盤」は、美しい純白の大盤の地に青い釉薬で花の文様が描かれています。紋様と余白のバランスが絶妙で、とても上質な印象を与えます。

【根津美術館 公式サイトの画像】 肥前鍋島藩窯「染付白鷺蓮葉文皿」根津美術館蔵

「染付白鷺蓮葉文皿」は鍋島らしい気品の高さが伝わってくる名品です。地に薄く青色の釉薬が塗られていますが、スプレーをかけたように筆致の跡を残さず、主役の白鷺を見事に引き立てています。葉に施された濃淡のぼかしが、全体を柔らかな印象に見せています。鍋島の凄腕が伝わってくる作品です

第5章は日本における中国風の花鳥画表現を完成させたともいえる狩野派の作品です。狩野派より前に足利将軍家の御用を務めた小栗派の絵師の作品にもさかのぼって、狩野派に至る花鳥画の発展をたどっています。

伝狩野元信筆「四季花鳥図屏風」は、六曲一双の大画面に雄大な山水を借景にして孔雀や雁を描いています。大きい余白で雄大さを表現する手法は中国の伝統に基づいていますが、孔雀や近景の松の描写にはすぐ後の桃山時代に流行した華やかな装飾的な表現が施されています。新しい時代への転換を今に伝えているようで、とても見応えのある屏風です。前期のみの展示です。

第6章は明・清代の中国の花鳥画の発展を俯瞰します。清朝・乾隆帝時代の宮廷画家・銭維城による「秋草図巻」は、30種の草花を標本のように描いた博物画集のような作品です。清らかな印象を与える写実表現が印象的で、花の美しさを忠実に伝えています。前後期で展示場面が巻替えされます。

最後の第7章は、江戸時代の日本の円山四条派と南画の花鳥画です。松村景文筆「花鳥図襖」は写実性の高い作品ですが、洗練された情緒があわせて表現されています。江戸時代に進化した「写生」の一つの到達点を感じさせます。

花鳥画を得意とした松村景文は呉春の弟で、岡本豊彦と共に四条派の地位を不動にした絵師です。大画面の襖のほとんどは余白ですが、大気感を花鳥の借景としてうまく表現しており、冗長感をまったく与えません。

現在の新館ができて10年経ったと聞くと、そんなに前だったかと驚きますが、館内は今も新しい趣を保っています。隈研吾による”木の温もり”がそうした印象を与えているのでしょう。

素晴らしい建物の中に、素晴らしい名品が並んでいます。根津コレクションの素晴らしさをあらためて確認できるこの展覧会、ぜひお出かけください。

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日本絵画の手本、中国の山水・花鳥画が生まれた背景を紐解く名著

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<東京都港区>
根津美術館
新創開館10周年記念 企画展
美しきいのち
日本・東洋の花鳥表現
【美術館による展覧会公式サイト】

会場:展示室1、2
会期:2019年9月7日(土)~11月4日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※10/6までの前期展